歯科医師がすすめる玄米食健康法 その2
咀嚼(よく噛む)は健康の源①
咀嚼とは噛み砕くことです。
白米を主食にすると、噛む回数が少なくてすみます。よく噛むことは私たちの健康にどのような影響があるのでしょうか。
人の歯は、大人で親知らずまで含めると32本あります。そのうち、穀物、豆類、種子などをすりつぶす臼歯は20本、野菜を噛み切る門歯(前歯)は8本、肉などを噛みちぎる犬歯は4本です。人の歯は、6割以上が穀類をすりつぶす歯になっています。人の体は、無駄がないようにできています。私たちの歯は、あらゆる食材をよく噛めるように構成されているのです。
日本人は、古くから近海で獲れる魚や狩をした動物も食べてはいましたが、米、麦、粟、ひえなど精製していない雑穀を主食にしてきました。雑穀は、白米に比べて硬くよく噛むことが必要でした。子供が好きなハンバーグ・スパゲティー・カレーライス・フライドチキン、大人でも鮨、刺身、豆腐など柔らかいものが好きです。レストランなどで若い人が食事をしているのを見ると、5,6回しか噛まずに飲み込んでいます。とても、心配になります。
それでは、よく噛んで食べるという咀嚼運動には私たちが生きていくうえで、どのような意味があるのでしょうか。
① 唾液の分泌を促進し、消化を助け、顎を発達させ歯を丈夫にする。
② 歯根膜や口腔粘膜、味を感じる舌の味蕾、顎の動きを感じる筋肉のどの感覚器官の刺激が三叉神経を通って脳に伝わる。
③ 脳の運動野から咀嚼筋に指令が届き、筋の運動がコントロールされます。
咀嚼(よく噛む)は健康の源②
① 唾液の分泌を促進し、消化を助け、顎を発達させ歯を丈夫にする。
よく噛むことで、唾液の分泌が促進されます。唾液の中には身体に有利に働くさまざまな酵素やホルモンが含まれています。代表的なアミラーゼという消化酵素は、穀類のでんぷんをデキストリンや麦芽糖に分解し、消化吸収を助けます。
また、唾液に含まれるペルオキシダーゼという酵素は、有害物質が作り出す活性酸素を消去する働きを持ち合わせています。「一口食べたら、30回噛もう」と言われるのは、食べ物に含まれる有害物質が出す活性酸素を消していくのに約30秒はかかるためです。30回以上かむことで、食べ物と唾液をよくからませることが大切なのです。
さらに、よく噛むことにより、耳下腺・顎下腺からパロチンと呼ばれる唾液腺ホルモンが分泌されます。パロチンには、顎や歯の発育を促進する効果だけではなく、老化防止の働きかけもするので、ボケ防止にも一役かっています。
そして、よく噛むことの一番の効果は、唾液がよく出るようになることです。唾液は一日に1.5リットルも分泌されます。唾液は植物繊維とからまり口の中の浄化する作用もあります。また、食物中の酸を中和して虫歯や歯周病の予防にもつながります。さらに、唾液に含まれるカルシウムやフッ素によるエナメル質の強化や再石灰化が行われます。
このように、よく噛むことは良いことずくめです。乳歯から永久歯へと変わる時期の子供には、永久歯を丈夫にし、顎の成長を促し、大人の方にはアンチエイジング、ボケ防止、免疫力の向上、歯周病の予防へとつながっていきます。
私たちは、噛む回数が本当に少なくなってきました。忙しいからでしょうか。食べる時間が十分にとれなくなってきたからでしょうか。食べ物のせいでしょうか。前回も書きましたが、私たちの体は、食べたものからできています。(You are what you eat.)それ以外のものからはできていません。食べ物は、自分の体の中に入っていき、自分の体を作っているものです。そのことを本当に理解することがとても大切です。
食べ物の常識も時代とともに変化してきています。ひと昔は、粗食が健康の元、卵はコレステロールが上がるので食べすぎてはいけない、タンパク質は血糖値を上げるなど、今ではその逆が常識になっています。
その中で変わらないのが、嚙むことは素晴らしいことだということです。食べ物の本当の味を知るためだけではありません。先にも書きましたが、噛むことは、中枢神経を守り、発達させることです。噛むことは口の中だけで完結するのではなく、口の中のすべての組織は脳の支配下にあるだけでなく、口の組織からも脳に情報が伝達されています。
米は日本人の主食です。(糖質制限をされている方は、米は炭水化物で血糖値を上げるので、制限または摂取をひかえていると思います。)白米は4,5回噛めば飲み込むことが出来ます。玄米だとそういう訳には行きません。私も玄米を食べるようになる前は、食べられる米は白いものだと思っていました。私が子供のころは、家で米を作っていましたので、苗つけから稲刈り、脱穀まで経験して知っていましたが、米は白くして食べるもので、玄米は食べるものだとは思っていませんでした。
そして、玄米を食べるようになって、よく噛むようになりました。白米は口に入れて数回噛むだけで、美味しいかどうかわかります。しかし、玄米はよく噛まないと本当の美味しさはわかりません。よく噛まないと消化によくないと思います。主食の玄米をよく噛むようになると、副食もそれに伴いよく噛むようになります。食事が楽しくなります。
何かきかっけがないと玄米を食べることはないと思います。玄米を売っているスーパーやお米屋さんも少ないです。まして、有機米や特別栽培米になるとなかなか手に入りません。そんな時は、ネットで検索すればヒットするサイトは沢山あると思います。このコラムを読んだことをきっかけに皆さんも玄米に挑戦してみてはいかがでしょう。