どうして矯正治療をするの?小児編
どうして歯並びが悪いとか受け口で、子供の時に矯正が必要なのでしょうか?小学校4,5年生の時、歯並びが気になって歯医者に行って相談すると、永久歯に生える代わってから始めたらどうですか?といったりもしますし、そういうことを聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。矯正治療と聞くと、歯の表面に装置をつけてワイヤーで動かすというイメージなので、永久歯に生え代わってからでも遅くないのではないかという発想が生まれると思います。大人の場合は、ほとんどの場合全部永久歯ですので、それでいいかと思いますが、子供の場合はどうでしょう。子供は乳歯から永久歯に生え代わりますし、成長していきます。体が成長するということは、背が伸び、体重が増えたりするだけでしょうか。背が伸びるということは、骨が成長することです。背骨、足、手などの骨と同じように顎の骨も大きくなります。顎の骨も上顎と下顎があります。上顎と下顎の骨の成長は同じ時期に起こるわけではありません。時間差があります。(図1)
図1
まずは、上顎が先に成長します。上顎の発育は脳の発育と関係があり、その時にとても大切な役割をするのが鼻呼吸です。脳は、活動するときに熱を発生します。発生した熱を冷まさせる働きが鼻にあります。鼻から吸った息が、車でいうとラジエターの働きをするのです。(図2) 図2
口呼吸だと、吸った息が直接のどを通って肺の方に行ってしまいます。活動した脳の熱を冷ますことが出来ません。鼻呼吸が十分にできないと脳が十分に発育できないし、上顎も十分に発育できません。上顎が十分に発育できないと、脳も十分に発育できません。口呼吸の場合は、吸った息が直接のどに流れていきます。血流だけでなく吸い込んだ空気により、脳で発生した熱を冷ますことが出来ません。空気には異物や細菌、ウィルスなどが含まれていてそれらを直接体内に入れることになります。(図3)
図3
ただ単に歯並びによくないだけではなく、免疫系にもよくありません。お口ポカーンの子供は風邪をひきやすくなります。
もう一つとても大切なことがあります。小児の場合、不正咬合はほとんどが上顎の劣成長です。受け口の場合や、叢生は口呼吸により上顎がうまく発育しないことにより起こってきます。上顎がうまく発育しないので、持って生まれた歯が並びきれずにガチャガチャになってしまうのです。受け口にしても、下顎が異常に大きいということは稀で、上顎の発育不全により受け口になってしまします。いったん受け口になると上顎の前歯が下顎の前歯にブロックされて成長が妨げられてしまいます。小児の時期の矯正治療は、上顎の成長を促すようにすることです。その時に、役立つというか利用できる解剖学的な要素があります。図4を見てください。
図4
子供の上顎の顎の骨と歯、大人の上顎の骨と歯を見ています。青い矢印で示しているのは乳歯の犬歯です。その左右の乳犬歯を結ぶように黄色い矢印で示した縫合(切歯縫合といいます)があります。隣の大人の顎にはありませんね。真ん中にも縫合があります。正中口蓋縫合といいます。大人の顎でも少し残っているように見えます。これらの縫合のところで成長することが出来ます。ただし、子供の時に残っている切歯縫合は、上顎の成長がほぼ終了するときには消えてなくなってしまいます。いつなくなるかというと、乳歯が永久歯に生え代わるころなくなります。
子供のころの矯正は、この切歯縫合を利用します。口呼吸で上顎が成長できずに受け口や叢生になっている場合に、この切歯縫合を拡げて受け口や叢生を改善するのです。したがってタイミングがとても大切になります。生え代わりには個人差がありますが、乳歯が残っているがどうかがカギになります。この時期に上顎を拡げて成長を促すということが重要になります。永久歯に生え代わってから始めましょうでは、このタイミングを逃してしまいます。
これまで、書いてきたように上顎の成長は、脳の成長につながります。鼻呼吸がとても大切になります。鼻呼吸は免疫にも関係することなので、体の成長や健康に欠かすことが出来ないものです。ご自分の子供を観察してみてください。お口ポカーンならば、歯並びが悪くなる可能性が大きくなります。機能母体説というのがあります。例えば歯並びが悪いから口で呼吸するようになるのではなく、口で呼吸するから、歯並びが悪くなるというものです。
小児の矯正は上顎の成長発育と脳の成長を手助けすると考えてください。
資料出典;ウミガメ株式会社運営のマウスピース矯正スタディーグループD/NEXセミナー資料
*動物は、鼻で呼吸します。人間は意思を疎通するためにおしゃべりをするため口でも息ができるようになりました。人間も動物ですから口ではなく鼻で息をする鼻呼吸が基本です。口で息ができるようになったお陰で得たものは沢山ありますが、失ったものもあると思います。でも、今からでも獲得できるものです。
鼻の病気で、口呼吸しかできない場合もあります。一度耳鼻咽喉科の受診もお勧めします。